シュタイナー学校の教師
現在の日本のシュタイナー学校の原点は何と言っても子安美智子さんのベストセラー「ミュンヘンの小学生」でしょう。1975年に刊行されたこの本は子安さんがドイツ赴任中にお嬢さんの文さんが通ったシュタイナー学校での日々を綴ったものでしたが、高度経済成長期も終わりを迎え、横並びの当時の日本の教育では想像もできない不思議な学校の雰囲気や、教育に関心がある人にはその理想的な教育体系などに大きな反響があり、翌年毎日出版文化賞を受賞、累計で100万部を超えるべすとせらーとなりました。そこに描かれていたひとつの理想的な教育の姿が多くの教員の方々の胸をうち、現役の教員の方や、これから教員を目指そうとする若い方の多くが、子安さんらが80年代に作ったシュタイナーハウスでシュタイナー教育の学びを深めていました。現在ある日本のシュタイナー学校の基盤になっている方々もここから羽ばたいて行かれました。
シュタイナー学校の教員なるということは、ひとつの教育の理想を追える現場としてはとても際立っています。昭和から平成と教育現場はますます管理教育的な世界観が浸透し、保護者サイドもモンスターペアレンツに象徴されるように協力的な方々もたくさんいますが、同時に学校運営を妨げるような保護者も、学校の権威が落ちるにつれてそれなりに増えています。そのような時代の変遷の中で、シュタイナー教育の現場は、公教育にあまりない学校運営を教員が担うという大きな負荷はあるものの、大筋のメソッドはあるものの授業内容を自由に生み出せるところで、多くの教員が献身的に授業準備をされています。教育にひとつの理想を見出し、子どもたちに良い授業を提供したいと思う教員にとっては理想を実現できる場になっています。昨今のニュースで多くの方もお気づきかと思いますが、公教育の教員の方々の環境が本当に大変そうです。残業が多くて授業準備ができないという声も聞こえてきます。世間ではオルタナティブ(代替的)教育という位置付けにシュタイナー教育はされていますが、本流も代替側も交流を持っていいところをお互いにシェア出来ることがこれからの課題です。
また、先程は負荷という表現をしましたが、学校づくり、学校運営も教員がになうというところは公教育にはほぼないところかと思います。ここも教育に理想を見い出している人にしてみたら授業準備に比べるとマクロ的にはなりますが、とてもやりがいのある、働きかけがいのある仕事になり得ます。学校の内装を保護者の方々と協力してしたり、黒板は大抵の学校は先生たちが毎年塗り直しています。とてもDIY的な世界観で学校自体が作られています。大変ではあるもののやりがいも大きくあると思います。
保護者の方々との関係も上記のように学校づくり、学校運営を共に作る仲間となるので、もちろんいろいろなところで子どもや授業、学校運営を巡って緊張した関係になることもあるかと思いますが、協働する仲間という面は普通の学校に比べると比べ物にならないくらい際立っていると思います。教員も保護者同士も運営を担うようになると全国のシュタイナー学校の教員、保護者の方々と連携するので、これもまた力強い関係性になります。現在は日本シュタイナー学校協会が発足されさらに闊達な連携が図られています。
教員で言えば毎年全国のシュタイナー学校の教員との集まりを持っていますし、アジア太平洋地域でも定期的に教員の集いを持っています。
運営は学校法人になっていない学校は財源を授業料に頼らざるをえず、苦しい反面、現場としては、教育に心血を注ぎたい方にとっては理想の仕事場になり得る場所だと思います。シュタイナー思想がカルト的だという批判もありますが、学校の規模が大きくなればそのような形では運営できませんし、そういう意味でも多くの方に関わってもらい社会性を増して、理想的な教育現場のひとつとして社会に大きな貢献のできる環境を持っていると思います。
現在教員の方や、教職を目指す若い方々には是非是非一度、お近くのシュタイナー学校を訪ねていただければと思います。